自治会の会計はどうしたら良いのか

 今回の経営者の方々との会は、経営からちょっと離れた話題になりました。

Mさんは来期から自治会の会計理事になるので、どのような心構えが要るのか、実際にどのようなことを注意をしなければならないのか、と皆さんへ相談を持ちかけてきました。

「いや、会社の会計は経理担当が行っており、チェックする方法や項目は分かっているつもりなのですが、会計実務となるとそう詳しくはないので困っているのですよ」

 そう言われれば、Mさんはこのところ何か考えているようなのでどうかしたのかな、と気にしていたところでしたので、これで合点が行きました。

「そりゃそうだ、自治会だから会社の経理にやらせるわけにも行かないからな」

「会長や副会長は引き受けたが、会計は担当したことがないのでどうしたものかな・・・」

「会社の経理に聞いてみるのも一つだが、”そんなこと分からないで、よく経営ができるのか”と思われてしまうかもしれないし、こりゃ止めた方が良いと思うよ」

「じゃ、今の会計の方にどうやってきたのか話してみたらどうなのかな、・・・」

「でもさ、今の会計がちゃんとしていないかもしれないし、そりゃまずいのじゃないかな」

 傍目八目にもならならない感じなので、中小企業診断士は話し始めました。

 

自治会の会計要点は三つ

 

「そうですね、三つくらいにまとめられると思います。第一は引継ぎ資料をキチンと作り、引継の際には監事に立ち会ってもらうことです。第二はこれからの入金や出金について誰から確認を求められても、キチンと手順を説明できるようにすることです。第三は、領収書、請求書等の根拠となった証憑を保管しておくことです」

会計とはそんなに要点が色々あるのか、と言う声が聞こえてきました。

「第一の引継ぎは、監事の都合が良い日に行うのですね」

「その通りです。Mさんが引継の時に疑問なことがあれば、立ち会っている監事と共に、前任者に確かめます。ですから、Mさんが納得できるまで引継を終えてはならないですよ。これは、会社の会計を監査するときと同じですよ」

「そのままにしておいては、ダメっていうことですね。引継の時は、今の担当が帳簿や領収書、銀行預金帳、現金をその場に持ってきて、確かめると言うことですか」

「そうですよ。引継は、まずは全部の銀行の預金帳の残高を調べて、出した総合計が預金帳簿と合っているのか確かめるのですよ。現金は勘定して金種別表注に紙幣と硬貨別に書き込みます。そして、現金出納帳の残高と合っているのか確かめます」

 Mさんが金種別表とは何かと言うので、様式をメモにしたら分かってもらいました。

「キチンと確認するためにも、監事が立ち会って行います。確認したこと、確認できなかったことを日付の入った書面に書いて、監事、前任者、Mさんが署名します。その日に確かめられなかったことがあれば、日にちをその場で決めて行うのは会社と同じですね」

 なあなあじゃダメと言うことなのか、とのつぶやきが聞こえてきます。

「第二の点は、Mさんが会計担当になった後のことです。入金と言えば自治会費の入金が一番多いでしょう。会員が自治会の銀行口座に振り込めば会員名や金額、月日が預金通帳に記帳されるので、確認が簡単です。出金も銀行口座から振り込めば、通帳に記帳されるのでちょうど良く、第三者もキチンと手順をたしかめられますね」

「そうですね、預金通帳に記帳されていれば、誰にでも説明ができますからね。でも、現金で払う場合があったら、どうしたら良いのですか」

「現金払いは、Mさん以外の役員が承認印を捺印した”現金支払依頼書”をもって行うのが良いですね。しかし、支払いはできるだけ銀行振込にするのが良いですよ」

 Mさんは、会社ではできるだけ振込支払にしてしたことを思い出した、と言っています。

「第三は、領収書や請求書、現金支払依頼書などを保管しておくことです。どのような支払でも領収書や請求書、現金支払依頼書が要ります。領収書等がない支払いは行ってはダメです。そして、振込払いでも現金払いでも、支払について手順を作っておき、その中でMさん以外の役員の承認を経た支払いだけがMさんに回るようにします。Mさんが単独で承認して支払ってはダメですよ」

 Mさんは、自分が現金で自治会費を会計に支払ったことを思い出しました。あの時、会計から領収書を貰いました。「あの領収書は控えがついていた」と言いました。

「あの、領収書は控えを取っておくことが必要と思いますが、でも、複写式の方が良いのではないでしょうか」

「そうですね、いわゆる耳付き領収書注を複写式に代えたらよいでしょうね」

 Mさんは熱心にメモ取っており、中小企業診断士も、それだけ力が入ります。

 

予算と実績をつくり、未収金をとらえる

 

「今話した三つは基本ですが、次も大事なことです。それは、予算を作って、実績と比べることです。自治会は、年度毎に予算を作って結果の実績を総会などで公表していると思います。予算と実績、これは会社と同じですよ。行事などに必要な費用を予算科目毎に立てます。行事などに実際に使った費用を実績として科目毎に計上します」

「それは、会社と同じですが、科目などはどう設けたらいいのでしょうか」

「特に決まりがありません。今まで使ってきた科目を使うのも良いでしょう。Mさんが、良い案があれば、自治会会則にそって科目を改定をすれば良いでしょう」

 会社と同じで、何をするのか、何時するのか、どのくらい費用をかけるのか、誰が担当するのかは、会計だけでなくほかの役員と共に予算を立案することが適切です。入金の主な科目は会費なので、会費の金額の根拠を明確にします。これも、誰にでも説明できるようにして、「会費が高い」と言われれば説明できるようにします。大事なことです。

「そうですか、今のことはしばらくは様子をみてから考えてみます。ほかにはどんなようなことがあるのでしょうか。できるだけ、知っておきたいので」

「そうですね、会費の未収金のことです。会費の未収金は、会員別に残高を明確にしておきます。これは引継ぎ資料に含まれているはずですし、もしなければ前任の会計に作るよう求めたらよいでしょう。そして、Mさんは、これからはキチンと毎期の会費を規則に沿って請求することが大事なことです」

 Mさんは、長い間会費が未請求であったと言う新聞で読んだと言い、「時効がどうのこうのと言ったことがあった」と思い出して尋ねられました。

「アノー、未収の会費があったとして、時効はどうなるのでしょうか」

「時効の問題は専門的なので、弁護士さん注にお聞きになってください。区や市の法律相談所、日本司法支援センターに問い合わせたらよいでしょう。日本司法支援センターは、法テラルが通称です。無料の相談を利用できますよ」

 弁護士さんに相談すると費用が生じますので、注意が要ります。役員会などで話しあい、相談に費用が掛かることなどの了解を得なければなりません。支払う弁護士費用と回収できる未収金を比べることも考慮しなければならないでしょう。

 

"認可を受けた地縁による団体"注とは何か

 

「そのほかにも、どんなことがあるのでしょうか」

「Mさんの自治会は、できてからどのくらい経っているでしょか」

「もう、かれこれ50年以上は経っているではないかと思いますが・・・」

「そうですか、すると不動産を持っているのではないかと思いますが、どうでしょうか」

「エー、そうですね、事務所を兼ねた小さな集会室がありますが」

「”認可を受けた地縁による団体”と言いまして、市町村長の認可を受けると不動産の登記注ができるのですよ。ですから、Mさんの自治会がその団体認可を受けていると思います。認可団体でなければ、今後受けたらよいでしょう。今でもどんな不動産があるのか財産目録があるはずですので、その中身の確認も引継の時に行ったらよいと思います」

「不動産を実際に確かめるのですか」

「そうですよ。会社でも固定資産の棚卸をするでしょう、あれと同じですよ」

そんなこともあるのか、と皆さんうなづいています。

長くなりましたが、Mさんは熱心に聞かれており、ほかの経営者も自分が「いつ、自治会の会計になるかもしれない」ので、聞き耳を立てていました。

 

表計算ソフトを使うと便利

 

 加えて、会の会計をするには、表計算ソフト注を活用すると比較的簡単、正確、見やすくできることを話しました。中小企業診断士自身は、数年前まで”認可を受けた地縁による団体”の会計を務めていました時に、予算の仕組みを作り、勘定科目の定義を整え、3カ月毎に決算報告を役員会に出したり、会費や未収金残高の請求書を期日に郵送したりしていました。その時、表計算ソフトを使った経験をお話したのです。会費の未収金は、請求書を再度発行したり、他の役員と手分けして支払を促したりしているうちに、少しづつですが減りました。

 そして、未収金の減少の進捗度合いを見て退任いたしました。それは一人が長い間会計を担当することは避けるべき、と思ったからです。5年くらい会計を担当しましたが、その間は会員や役員の方々の支えがあったからこそできたと思います。

 これも、会社の経営と通じるところがあります。

 

中小企業診断士 窪田 靖彦

注:金種別表は、紙幣を種別に枚数、貨幣を種別に個数を書き、それらの合計金額を記載した表です。金種表とも言われています。

注:耳付き領収書とは、左側に控え書、右側が領収書の様式で、左右に同じことを書き込む領収書です。

注:日本司法支援センターとは、刑事・民事を問わず、国民がどこでも法的なトラブルの解決に必要な情報やサービスの提供を受けられるようにしようという構想のもと、総合法律支援法に基づき、平成18年4月10日に設立された法務省所管の公的な法人で、通称は法テラスで、その電話番号は0570-078374です。

注:総務省の説明では認可を受けた地縁による団体を指します。日常生活レベルにおいて住民相互の連絡等の地域的な共同活動を行い、地域社会において重要な役割を担っている自治会、町内会等の地縁による団体は、いわゆる「権利能力なき社団」に該当するものと位置づけられてました。 こうした権利能力なき社団については、その資産は構成員に総有的に帰属するが、不動産登記については、代表者名義等により不動産登記簿に登記するより他に方法がないとされてました。 このため、平成3年の地方自治法改正により、地縁による団体が権利能力を取得(法人格を取得)する制度が創設されました。 この改正では、地縁による団体は、地域的な共同活動のため不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める範囲内において、権利を有し、義務を負うこととされました(地方自治法第260条の2)。 

注:不動産は大切な財産である土地や建物を個別に、どこにあって、どのくらいの広さで、誰が持っているのかの情報を、法務局のコンピュータに記録します。この記録が登記で、不動産の情報が公示されることから、国民の権利保全が図られ,不動産登記の取引の安全にも役立っています。

注:表計算ソフトは、パソコンの画面上に集計用紙があるようかのような表示がされ、升目にデータを入れることで、表を作ることができます。この升目に単に数値や文字だけでなく、数式を入力することで計算ができます。

注:弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。