売上をあげるのは、営業だけではない

 支援先は電子部品等の下請製造業で、昨年後半から売上が良くありません。中小機構調査では「電気・情報通信機械器具・電子部品は依然としてマイナス」などとしていました。 

 このような調査結果を待つまでもなく、支援先は売上が低下していることは日ゝの受注結果からつかんでいます。低迷している売上をどうするのか営業部長を中心に検討していますが、昨年前半は良い売上であった余韻もあって、営業担当は低迷原因の深堀や回復策を実行する歩みが遅く、日々が過ぎようとしていた中で月末営業会議が行われました。 

お客様の状況を聞く営業担当 

「全体をつかむため前期売上上位10位を対象に、どの程度拡大できるかを担当から話してもらいましょう」と営業部長が口火を切って会議が始まりました。 

「私の担当先は上位10社のうち3社ですが、A社は売上が低迷していますが、来月訪問して見通しを聞くつもりです。B社はZ品の受注が僅かに増えるとご担当の方から聞いておりますので、どのくらいなのか訪問して様子を聞く予定です。C社は現状の売上が続くのではないかと先方のご担当が言われておりますので、そのように推移するのではと思います」 

「エーと、今の佐野さんを数字にすると、3社とも今期計画を下回るようです。皆さんと一緒に立てた計画ではA社、B社、C社とも売上増加を計画していますので、どうするのか話してもらいたいと思います」 

「部長、計画はあくまで計画ですから、そのようにどう計画を達成するのかと言われても、相手があるものですから皆目見当が付きませんよ」と佐野さんはややふくれっ面で言った。 

 佐野さんの不機嫌さが伝染したのか、他の営業担当は私語をごそごそと始めましたので、部長は会議をとにかく進めてここでは全体の実情と営業担当の心情をつかむことに切り替えました。 

「次は、杵島さんですね、上位10位のお客さんを対象にどの程度拡大できるかを話してください」 

「私の担当は、10社の中ではD社とE社です。D社のこの3ヶ月間の売上と受注の推移はハッキリしない業界のあおりを受け、前年と比べても低下しています。同じ業界のE社も同じような傾向でして元に戻るところまで見込めるところまでには、この業界としては来ていないようです。いや、これは両社のご担当のご意見ですが、私もそのようになるかもしれないと思っています」 

 皆さん、お分かりの通り、これではいわゆる御用聞きのような営業活動です。 

普通じゃない担当者の姿勢 

 同じような他の担当からの報告が続き、そして、下田さんの番になりました。 

「では、次は下田さん、状況と今後の方策について話してください」 

 その時、会議に出席していた社長が手を上げて、部長の方へ顔を向けて了解を得ながら下田さんに尋ね始めた。 

「下田さん、お聞きしたい事がありました。先々月の訪問予定ではK社を訪問するとしていました。また、先月も延期になっていますね。如何したのですか」 

 下田さんは、社長の問いかけに黙っているだけでした。今まで会議ではこのようなことが無かっただけに、中小企業診断士は注目していました。下田さんは黙りこくっていましたが、他の人も黙っています。 

 社長が如何したのかと下田さんのほうに顔を向けていましたが、暫くたってから下田さんが話しはじめました。 

「アノー、行かなかったのは部内で話した結果なので・・・。K社の業界では、他社でも事業を縮小するところも出ているようで。そうゆうことが営業部内で話し合って、訪問活動は止めになり・・・」 

「ということはK社の業績が悪くて、万が一のことが起きると言うことですか」 

「そこまでにはすぐにはいかないでしょうが、先はどうなのかと、部内で話し合いましたので・・・分らないとなって・・・」 

「それで、如何しようと言うのですか。K社には営業活動しないとして、その分の売上は落ち込んだままなのですか」 

「ですから、K社には訪問しない方がよいとしたので・・・。その分の売上をどうするのかと言われましても、それは・・・」 

 下田さんは困った顔をして、部長などを様子を窺っています。中小企業診断士も気になっており、思わず尋ねてしまいました。 

「下田さん、そのK社の話しはどこからお聞きしたのですか」 

「それは、K社へ納入している他社の方から、ちょっとお聞きしたものでして」 

 読者の皆さんも、このような経験をされたことがあると思います。この話しは長く続きますのでこの辺でお終いにしますが、このK社が納入する先の企業が経営危機となったとやがて新聞などにも報じられるようになりました。 

 営業の皆さんの売上が計画対比で未達成の点では同じです。しかし、佐野さん達の発言と下田さんの黙んまりとは、その背景が違います。 

 経営者が売上を欲しくなるのは当たり前のことです。その一方では、つかんだ事実に応じることが必要です。 

冷静に考えて、活動する大事さ 

 今は、社長の下で次のように2つに分けて進めています。 

①K社は、下田さんが聞き取ったことを営業部長が出かけて確かめることから始まりました。この種のことは確たる事実をつかむことはできませんが、どう進めるのかを検討して、取引の縮小を始めています。社長からは、その他の顧客にも同じような事があれば直ぐに報告するよう話されています。社長は、今まで営業担当がこのような事が話し難かったこと反省しています。 

②K社以外のお客様には、営業と工場・技術等が纏まってどのような提案をしていったら受注に結びつくのか、具体的な内容を立てることになりました。 

 営業担当だけ努力だけではなく、工場・技術等の知恵を活かし、新たな技術、生産方法をお客様に提案し続けて行くことに一致してすすめています。 

 その中にはVAによる改善も含まれており、お客様から高く評価される提案も出てきています。お客様から設計段階からの参加も呼びかけが出てくることも考えられ、今までない動きが出ようとしています。 

 ひとり、営業部あるいは営業担当だけが受注するのではありません。営業の後ろには工場や技術、総務等がいて、一緒に受注して行く体制と意識を持つことが大事だと事例は示しています。 

 そのためには、社内の風通しを良くすることが社長の役割です。 

中小企業診断士 窪田 靖彦

 注:VAとは、生産された製品を改善する手法。品質や機能を考慮して製品を分析し、費用引下げになるよう提案する。着眼すべき事例は次の通り。①他の価格の低いモノに代替できないか。②今の品質は必要なのか。③必要な材料の長さや幅、直径を見直し、無駄を省けないか。

これに対して、VEは設計段階から改善を図る手法。不必要に過剰品質にならないこと等を念頭において設計を行う。部品製造の小規模企業が、製品の設計段階から入り込むことは画期的とも言える。