事務担当者と売上

 

 

 

 今は売上が思うように伸びてゆかないことは、どこの会社にも通じる事かもしれません。これをどうやって打ち破って行くのか、皆さんは苦労されていることと思い、次の事例を参考に供します。

 

 社長が中小企業診断士にふと呟いたことがあります。

 

「どうも、営業の事務員がちっよと・・・、いや・・・減らせるかな・・・」

 

「そうなのですか、営業の事務員を減らすことができると思っているのですか」

 

「いや、そうではなくて、経理や総務の事務員が売上げに貢献することができないか、と思うのですが、どうでしょうか」

 

「営業ではなくて、経理などの事務員が売上げにどのようにしたら貢献できるのか、と言うことですか」

 

「うまく言えないですが・・・。経理などでも知恵が出ないのかと・・・」

 

 社長は、自身の考えをうまく云う事ができないのか、間が開きましたので、例を取りながらお話ししました。

 

 部門は直接簿門と間接部門に大別できます。直接部門は金を稼ぐ部門、間接部門は直接部門を支える部門です。この社長の会社は製造業ですので、工場の工程員、営業の営業担当が直接人員です。経理など事務員は間接人員です。工場事務員や営業事務員は、直接部門の中の間接人員です。

 

「会社全体の間接部門、そして直接部門の中で間接仕事をしている従業員が売上げに貢献するにはどうしたら良いのか、これが課題ですね」

 

「そうですね、どうしたら間接人員が売上げに貢献できるのかということです」

 

「社長は、どうしてそのように考えたのでしょうか」

 

「この間、経理課長にちょっと確かめたいので、経理の部室に入ったら皆さんと言っても2人の経理担当は仕事がないような感じがしたものなので」

 

「それで、・・・」

 

「課長との用件が終わった後、暫く居たのですが、そんな様子でした」

 

「そうですね、経理は売上が減れば仕事が少なくなりますから、受身の姿勢であればそのとおりでしょう」

 

「営業事務も経理と同じで、手持ち無沙汰の感じがしたものですから」

 

 規模が小さい会社では、忙しい時は経理などが現場を手伝います。社長の会社のように規模が少し大きくなると、経理などは仕事を営業や工場と別の場所で行います。受注が減って来ても、会社全体の動きが見えないので、経理などは気をつけないと、会社から離れた存在になってしまいます。

 

 

1.経理しかできない仕事

 

 では如何したら良いのでしょうか。考えてみると、経理などは他の部署が行わない仕事をしています。その”他の部署しか行わない仕事”の中に売上を上げる方法があるのではないかと考えたらどうでしょうか。

 

「社長、経理がやっている仕事で、他の部署ではしない事はなんでしょうか」

 

「そりゃ、いろいろありますよ。でも、会社にとって経理の一番大事な仕事は資金繰りをキチンと回す事です」

 

「そうですね。時には資金繰りを回すために借入をしていますよね」

 

「運転資金が足りなくなったら大変ですから、借入をすることがありますよ」

 

「その時は、信用金庫や銀行に借入を申し込みますね」

 

「そのため、経理は常日ごろから信金などには会社の状況を説明していますよ」

 

「どうでしょうか、経理が売上を増やす道が見えてきませんか」

 

「えーと、・・・。うん・・・、そうか。経理が信金の方々、なんなら本部の方々にお客様のご紹介をお願いすることでしょうか」

 

「そのとおりですよ。これは営業ではできません、経理だからできるのです」

 

 

2.経理は自社製品等を説明できますか

 

 でも、この方法はそう簡単なことではありません。

 

 中小企業診断士が玩具製造業を訪ねたときのことです。断って、受付にあった会社案内等を集めました。次の訪問の時までに会社案内等を見ながら質問表を作り、経理等の方に回答して貰いましたところ、半分位しか正答がありませんでした。このような経理では、信金の方々に会社がなにを作っているのか、正確には説明ができません。もちろん、先方の質問にも答えられませんので、これではかえって信金として、この玩具製造業に対する信頼度が下がってしまいます。

 

 説明できない、質問に答えられない事実に直面した玩具製造業の経理は、製造現場や営業担当に尋ねたりして自社の製品のことを学びました。入社以来はじめてだったそうです。そして、経理担当が言っていました。

 

「毎日会社には勤務はしているが、どのようにどんな特徴をもった玩具を作っているのかが、分らなくなってしまった。会社は進展しているし、新しい玩具の特徴について、自分自身の関心が薄くなってしまったことに気が付いた」

 

 総務も同じでした。営業の事務はこれよりはましだったかも知れません。

 

 

3.身近な気付きも大事です

 

 中小企業診断士は、次のようなちょっとした事例も説明しました。

 

 紙器製造業の営業関係事務員は、毎朝の朝礼で売上が芳しくないと営業責任者が言うのを聞いており、気になっていました。毎月、売上締切日になると請求書を作成し封筒に請求書を入れて投函する決まった作業をしている時に気が付きました。

 

「請求書だけでなく、簡潔なお礼状を入れたら、お客様は当社によい感じを持っていただくことにつながり、やがて売上が増えるようにならないかな・・・」

 

 この事をもう一人の事務員と話し合いました。すると、意見が出て来ました。

 

「別納郵便の代わりに、きれいな記念切手を貼ったらどうかしら」

 

 工夫すれば切手を貼る手間も少なくできるという意見も出てきました。早速、お礼状を入れた封筒に記念切手を貼って、封筒に思いを込めて郵送しました。

 

 偶々、お客様の中に記念切手を収集されていたお孫さんがいる幹部の方がおられ、その紙器製造業に好意をお持ちになって頂いた例もあります。記念切手を貼ったからといって、売上が伸びてゆくほど簡単なことではありませんが、その幹部は紙器製造業の営業に何かと声をお掛け頂くようになりました。これからどうなるのか、楽しみです。

 

 

4.会社を思えば思うほど考えが出ます

 

 電子部品製造業A社の女性総務担当Bさんは顧客C社に納品に行き、顧客ご担当から雑談の中で「これをCADにできる?」といわれ、「ハイ、できますよ」と答えたのがキッカケで注文を頂きました。また、納品で顧客の工場内を通った時に、工程をよく観察するようになり、「うちではこんな物の加工もできますよ」と提案して受注となったそうです。A社の売上は少しですが上がり始めています。

 

 Bさんは「私は総務担当」と思う前に、「私はA社の従業員」との気持ちが強いから、このような動きになりました。

 

 

5.心が一つになる

 

 これらの事例は、事務担当など間接部門が自分の会社と思えば思うほど、いろいろな提案が出て来る事例です。この事例のほかにも、間接部門が考えればいろいろとすばらしい提案が出てきています。そして、何よりも大事な事は、従業員の皆さんの心が一つになることで売上低迷を乗り切ることができることです。

 

 皆さん、ひとつ試してみませんか。

 

中小企業診断士 窪田 靖彦

 

 

注:1ヵ月仕事をしたから給与が入るのではありません。お客様が商品やサービスをお買い頂いたから給与が出るのです。すべての従業員がお客様に”ありがとうございます”と感謝していなければ、売上げを確保することができません。これには、例外はありません。