月1回の定例幹部会議の前に、S社長からメールが入りました。
「会議に先立って、ご相談がございます。もし、ご都合が付くようであれば会議の30分位前までにお出で頂くことは可能でしょうか」
S社長の会社の現在の状況は、課題が明確になってきて、それらをどのように解決にして行くのか、実行計画を立ててどう行ってゆくと思っていました。そのほかにはこれはと言う事が無いので、相談したいとは何かなと思い、当日は要件を済ませてS社長をお訪ねしました。
「突然お呼び出して、また、お忙しいところ、すみませんでした。実は、人事関係面でご相談をしてきた顧問の方から、こんな申し出がありまして、・・・」
S社長は、弁護士、社会保険労務士、税理士など中小企業診断士の他に専門家の意見などを参考にして、経営しています。何事にも慎重さがある方です。それら専門家の中から出された10枚にはならない提案書を差し出しながら、話し始めました。提案書をさっと見ますと、まず結論を出しており、その結論に沿って研修を幹部に行うことが提案されています。論旨は一貫しており、良くまとまっているように思います。
「提案書、良くまとまっていると思いますよ。それで、何か引っかかることでも・・・」
「そうですか、そう言われると安心しますが・・・」
一般的に言えるようなことが提案書に記載されており、ここでは書くことは差し控えますが、体言止めで明確に書かれています。S社長は、外部の専門家が問題と指摘したことには理解しなければならないと思っているようですが、ご自身では提案書とは異なる意見をお持ちのような感じを受けました。そこで、懸念される点を話しました。
事実は、どうなっているのか
「気になることは、初めに結論が出ていることですかね。どうしてこのような結論が出てきたのか、その根っこがハッキリと説明がされておりません。社長は、この提案者がどうやってこのような結論を得たのか、出したのかお聞きしましたか」
S社長は、ハッとした顔つきで話し始めました。
「実は、どのようなことから、この結論を得たのか、まだ、確かめていません」
このような場合、一般的には実際に現場に出向いて従業員と話しをしたり、記録などの根拠となるものを得るなどして調べます。その後、それらを分析して、こうしたら良いだろうと言う計画を立てて、行うという順序が適切です、とS社長に話しました。
「そうですね、分かります。まずは、従業員に会って聞いて貰う事ですね」
「そう思います。社長が、その調査の結果を専門家からお聴きして、専門家の言う通りと思ったら研修を始めるのが、適切と思いますよ」
これで、S社長の件は整理がつきました。
言われた相手は、どう思うのか
仮に、事実確認の手順を踏まないで研修を始めてしまうと、どうなるでしょうか。幹部の中から次のような話が出てくることもあると思います。
「講師は、どうして”全社の課題が幹部の間で共有されていない”と言うのだろうか。私は、そんなことを言ったことはないし、講師からそのような質問を受けたことはないよ」
「私も質問を受けたことはないよ。”全社の課題が幹部の間で共有されていない”ことでもを書いた議事録や記録でもあるのかな。あるなら、その記録を見たいもんだ」
「どこか他社の事例ではないのかな。共有と言う言葉なんか流行っているようだしさ」
このような雰囲気では、研修もよい結果を期待することは難しいです。手順を踏んで、実際はどうなのかを丹念に捉えることが適切です。
PDCAでは、不十分のかな
上の話は、事実をつかんで、どうしたらよいのかを考えることが大事と言うことです。一般には、PDCA注の考え方がよいと言われています。しかし、ちょっと考えてみると、初めからPであるPlan=計画を立てることから始めることは、無理があります。CA+PDCA注にすると分かりやすいと思います。頭のCAのCはCATCH=捉える,CAのAはANALYZE=分析することです。Cから始めて、Aに移ることが適切ではないかと思います。
経営は、事実をまずは捉えることから始めたらと思います。
そして、CAから一拍おいて、PDCAを始めたらと思います。この一拍置くことは、より良いことがないか等を考える時間で、さらに良い考えが出てくる場合があるからです。
中小企業診断士 窪田靖彦
注:PDCAは「Plan・Do・Check・Act」の頭文字を並べた言葉です。意味は、Planは計画を立てる、Doは実行する、Checkは評価する、Actは改善するです。品質管理などのW・エドワーズ・デミング博士らが提唱した考え方です。
注:CA+PDCAは、中小企業診断士杉浦守彦様が提唱されたものです。