「突然、発注が止まってしまった」、「受注したが、支払いが長い手形だ」、「値段を引下げろと言われた」と下請加工業からお聞きする機会があります。人口減で国内需要が落ち込んだ、デフレが続いている、円高になっている等と、識者が不況が続く理由をあげていますが、中小企業には何の参考にもなりません。
では、どうしたらいいのか、上手い手があれば苦労しませんよ、と話す経営者がいます。しかし、思い出してみるとこのようなことは、繰り返してきました。その時に大層苦しんだことから、気がつき手を打ってきた企業の話をしてみましょう。
どの商品が伸びるか、誰も分からない
A企業は部品加工業ですから、受注生産です。受注した部品を製造して納品します。JIT注のために納入先顧客は在庫ゼロですが、A企業の納品は時間指定です。ですが、先々の受注は出して貰えず、しかも短納期です。A企業は、これらに長い間に耐え鍛えれて来ました。社長と中小企業診断士との会話が、A企業の事業の方向を転換する始まりでした。
「お客さんの○○工業も、なぜこの頃注文が減って来たのか、分らないそうですよ」
「○○工業が、納品先の◎◎産業に聞いたらどうなのかな、わかりますか」
「それが、◎◎産業でもつかんでいないそうですよ。◎◎産業が納品している企業が、完成品として完成品を組み立てて市場に出しています。これからの見通しは分らないそうですよ。むしろ、そんなことを外部に言うのは禁じられていそうです」
「そうですよ、悪い情報は早く伝わりますからね。株価低落の材料になってしまうので、分かっていたとしても、言わないのでしょうね」
業界は三角形で、その底辺に部品加工業が沢山あります。その一つがA企業です。頂点にいる企業に向かって加工して納品し、また、一段上の部品加工業が加工して納品すると言った幾重にもなる多重三角形構造です。
「そうかもしれませんね。◎◎産業の納品先は、今、市場競争が激しいと報じられています。苦戦している企業は、わざわざ悪材料を発表して株価を下げる訳がないですからね」
新聞は、市場で苦戦組と勝ち組とに分かれ、話題の企業は勝ち組になろうとしている最中と報じられていました。その企業の傘下で仕事をしているA企業は、今後どうしたらよいのか、話しが続きます。
「どうですか、このようなことは5年程度前にも、違う物で経験しましたよね」
「そうです。あの時は大変で、30%どころか40%近くまで売上が落ち込みましたからね」
「あの時と同じことが、また、今も繰り返していますね」
「そうです。でも、ちょっと違うのは、今は一つの産業というのか、頂点の企業が生産している完成品が幾つもの業界になった点ですよ。これは、先生と話し合った末のことですから」
「そうですね。どの業界でも浮き沈みがあります。良いと言われた電気業界では、品目をみると、安定なんかしていません」
近年、電子端末がどうなってきたかを話しました。PCは2013年30万台、それが2015年26万台に落ち込みました。タブレットは2013年20万台が2015年32万台に増え、携帯電話は2013年180万台が2015年195万台に伸びています。電子端末の中で、PCだけが落ち込んでいます。
「あんなに良かったPCは、日本では見る影もありませんね。PCに頼っていたら、今ごろどうなってしまったか、本当に恐いですね」
「そうですよ。一般のお客さんは、どこの国の会社が作ったか、などにこだわりませんからね」
「品質は良くて、値段は安いのが、当たり前。従業員を見ていても、自分が使い勝手がよいと思うスマホを買っていますからね」
下請企業はどうするのか、蛸足だ
産業界や業界の動きをを良くみて、どの物が良くて、どの会社が伸びるのかが分かれば、それはすばらしいことです。下請加工業では、どの物が先行き良くて、何がダメにになるか、そのようなことは分かりません。
「これから、どう考えたらよいのかと思っていますが」
「そうですね、いろいろな産業に売上の柱を何本も建てることですね。そして、一つの産業の中でも複数の会社と取引したら、どうでしょうか」
「産業は、どうやって選んだ良いのでしょうか」
「産業別に市場規模を表した統計が出ていますよ。市場の規模も大事ですが、その統計には伸び率も出ていますから、判断材料になりますよ」
「そうですね、産業別に売上と、売上の伸びと縮みがつかめると、分かり易くなりますね。いつもありがとうございます」
昔からどう電気業界が変わってきたかをに触れてみました。白物家電は、電気冷蔵庫と電気洗濯機は1955年から、エアコンは1965年から増えて、1995年電気冷蔵庫は5千億円近くなり、電気洗濯機は2千億円に達し、エアコンは1兆円を超えました。しかし、これら商品は2005年以降はいずれも減少しています。海外製品が国内に入り、価格低下など引き起こしたとされています。白物家電は、海外製品に占められました。テレビは1985年白黒テレビとカラーテレビが1兆3千億円と頂点でしたが、2008年には薄型テレビ1兆3千億円が取って代わって主役になりました。
このように、電気業界と一口で言っても、物の盛衰は激しく動いています。A企業は部品加工業です。電気業界にも足を入れていますが、電子端末業界にも、加えてその他の伸びると思う業界に何本も足を入れ始めています。
このように、一本足ではなくて8本ぐらいの蛸足経営を行ってゆけば、部品加工業は継続して行きます。
下請企業が、経験から割り出した方針です。休む暇はありません。
中小企業診断士 窪田 靖彦
注JIT(JustInTimeの略)は、顧客にとって「必要なものを、必要なだけ、必要なときに作る」生産方式です。製造期間短縮・在庫削減の有効な手段とされています。