今年4月に入社した新入社員も年末を迎えており、会社に慣れてきたころでしょう。ソフトウェア開発業G社では11月に社員全員が集まって、3年程度以上の先輩社員から「自己紹介と新入社員に贈る言葉」を4月入社の新入社員に向けて話す場を設けています。来年4月には、新たに新入社員が入ってくるので、今年入社した社員がいつまでも新人ではないことを自覚するための場でもあります。社長から誘われた中小企業診断士は、「どのような組織なのかを知るには、社員の話を聞くこと」だといつも思っていましたで出てみました。自己紹介の内容はその人の苦労や慶びがあり興味深いものですが、守秘義務から割愛します。新入社員に贈る言葉も少し手を加えておりますので、読者の皆さんのご理解をお願いします。
褒めることと叱ること
Nさんは、自身がどのようなときにモチベーションが上がるのか下がるのかを中心に話し、これからは後輩にはモチベーションが上がるように接して行きたいと考えていると話しています。体験に沿った分は、説得力がありました。「褒めれるとモチベーションは上がるが、失敗した時に何が原因なのかを言われないと、どうして良いのか分らず宙ぶらりんな気持ちになる」、そして「叱られてばかりいるとモチベーションは下がってしまう」と言います。「なにが悪いのかをはっきりさせて、叱ることは先輩として大切なことだ」と事例を交えて説明しました。Nさんは、また、褒めらてばかりや叱られてばかりではなく、バランスを取ったら良いのではと思い、後輩にはそうしたいと結びました。
Nさんの話しが最初なので、司会が質問をするよう促しましたが静かなので、中小企業診断士の手をあげて「バランスを取ると言っても、事実に基づいて褒めたり叱ったりすので中々難しい場合があるのではないかと思います。後輩に期待していることを告げて、褒めたり叱ったりしたらどうでしょうか」との意見を出しました。Nさんは、少しの間考えていましたが、「期待していることを伝えたら良いという助言は、相手も受入れやすいと思います。ご指摘ありがとうございます」と礼を言いました。「おおそうか、期待されていれば叱られたとしても気持ちが通じる」となり、会場の空気が緩みました。
なにかの考えが必ずあるものだ
次のTさんは、ほかの人が行った後を自分がやることが多くあったが、その時どのように考えてやってきたのか、これからどうやるのかを話しました。Tさんは言います「誰でも、何かを考えて仕事をしているのだから、その考えを知ることが後をやる自分にとって最初に行う事だし、大切なことだ」と。考える事とは論理的な筋が通っていることなので、その筋を見つけ出せば後から行う自分に取っては変更する場合も円滑に進むはず、と話していた。
Kさんの質問は「ほかの人が行ったことが、Tさんが考えて間違いであってもそうするのか」でした。Tさんの回答は「間違いなのか正しいのかは、ちょっと見ただけでは分らない。前の人がどのような論理で仕事をしたのかを掴まなければ、間違いを修正するにしても、どうしたら良いのか分らない」ので、遠回りになるが、何故ほかの人がそうしたのかを掴む事が結局は早く仕事をすすめることとにつながると話していた。
新入社員たちは、話に耳をそばだてて、メモを取っていました。
どうやって心の健康さを保つのか
十年以上の経験を有しているHさんの次の話は、直ぐには新入社員に役立つものではありませんが、将来「ああ、そうか、あの話はこのことなんだ」と思い出す事でしょう。
「その時の仕事は、率直に言ってつまらない仕事でした。日々、同じようなことの繰り返しで、心の健康さをどうやって保つのか、そうしないとダメになってしまうようでした」と話しを切り出しました。数年前、上司が異動となった時は「チャンスだ、私がこれをつかまないでどうする」と思い、今まで考えていたことをドンドン進めたら昇格して責任者になり、ここまで来たと述懐します。今は、上司はたいへんな思いで仕事をされていたのだと想い起こし、自分も自身に負けないように「心の掃除を欠かさない」そうです。
Jさんから「心の掃除は、どのようにされているのですか」と問われると、Hさんは「それは話したくないのが、本音です。少しだけ話しますと、ゼッタイに負けちゃダメと自分に言い聞かせることなんだ」と胸のうちを少し開けました。責任ある人はたいへんな思いで仕事をしているという実際に触れた会場は、シーンとしてしまいました。
自身で調べて、納得してから仕事始める
Mさんは、「自分は、仕事を始める前には自分で調べて、自分が納得してから始めるタイプ」と言います。加えて、自分が担当している範囲が、全体のどこに当たるのかを確かめることもいつもしていると言います。チームで仕事をしているのだから、これらのことは当たり前だと話します。仕事が始まると、チーム内で進捗状況を確かめ合いますが、その際は「他の人の仕事の進み具合がどんな様子なのか」をいつも注意深く聞いており、要点についてメモを必ず取っているそうです。
「チームワークが大事だとよく言われますが、チームワークはもたれあいでは成立しません。自立した人が集まってこそチームワークが生きると思う」と言い切っています。「自立していない人は、自分が自立していないことをよく認識して実力を高めないと、置いてきぼりになる」と話しました。
Bさんが、「若い社員を助けることについて、どう思われますか」と尋ねると、Mさんは、「若い社員であっても自分自身が何が分らないのか、それをつかんでいれば助けようがあるが、なにも分らないままに助けてくれではダメだ」、「自分から言い出さないで、周りが気がつくのを待っている姿勢は論外だ」と回答しています。
この話は、新入社員だけではなく、他の社員にとっても新鮮な刺激のある有益な話と中小企業診断士が付け加えました。「そうだ」と言う声が上がりました。
教育と訓練
G社では、新入社員には3ヶ月間の教育訓練注を行ってきていました。「人が最も大事」なのだから、中堅社員にも教育訓練の機会を創ろうとしています。その一環として、今回”先輩社員から「自己紹介と新入社員に贈る言葉」”は教育訓練の内の訓練として行われました。
中小企業診断士として、意見を求められました。
「今日の先輩の贈る言葉は、新入社員の皆さまには良い内容です。これについてより分るように話す点から助言します。それは、会場の皆さんの顔を見ながら話されることです。皆さんが『分った』と言う顔なのかどうか見ながら話してみてください。『分らない』顔があるときは言い方を変えて話してみてください。それには、原稿を諳んじて話すと、顔を皆さんの方へ向ける事ができます。良い内容を話す場合であっても、顔を下に向けて原稿を見ていると、声が聞き辛くなります。この点、注意されると良いでしょう」
先輩社員は、これから何度も人前で話しされる機会があります。その時に思い出して頂ければと思ってお話ししました。
「もう一つは、社会人になった後は自分で自分の成長しているのかどうか見極めることになります。学生時代は、学校が通信簿で成長度合いなどを評価していました。社会人は、自分で定期に自分の通信簿を付けてみて下さい」と追加しました。
間もなく入社1年が経とうとしている方々には、これからの成長を期待していることを伝えて終わりました。
注:教育とは「人を教えて知能をつけること」(広辞苑)です。訓練とは「実際に或る事を行なって習熟させること」(広辞苑)です。
中小企業診断士 窪田 靖彦
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