今年、東京都の高校授業料無償化がスタートしました。均等な教育機会の提供と少子化対策を目標としたこの制度は、親の年収制限を撤廃したことに大きな特徴があります。多くの子供を持つ家庭から反響があり、都民の期待に都政が応えた、と評判のようです。
しかし、国がイニシアチブを発揮すべき教育の制度設計に先行した東京都の取り組みは、隣接する自治体から反発を食らうことになりました。同じ学校に通う子供たちの家庭が東京にあるか隣県にあるかだけで、教育費の自己負担額が大きく異なるからです。
一方で、千代田区、中央区や文京区などでは、2人にひとり以上の割合で私立の中高一貫校を受験するというデータもあるようです。無償化で浮いたお金が進学塾に流れ込み、私学受験がさらに熱を帯びてしまえば、そもそもの教育機会の均等という目的に沿った制度となりえるのか、という疑問を感じたりします。
行政予算が豊かな関東の中でさえ、地域や収入の格差が助長されかねない懸念も感じます。少子化対策であるはずが、強力な磁力で他地域から若い人口を吸い寄せるだけの結果になれば本末転倒です。名誉の転勤を命ぜられても、子供の受験や進学を理由に家族は誰もついてこない、そんな切ない副作用の予感も感じつつ、その成果を見守っていきたいと思います。
同様に高齢者介護についても、似たような課題を感じた出来事があります。名古屋市内の施設で暮らす私の母は、骨折と誤嚥が原因で新しい入所先を探さなければならなくなりました。医者の勧めもあり自宅のある横浜で探しましたが、公的な助成のある施設はなんと100人待ちです。その順番を待つ間を過ごす民間の施設は月々40万円近い費用を必要とするため、困り果てた私は、適当な施設がないか名古屋で探すことにしました。すると、あっけないくらいすぐに見つかりました。しかも費用は横浜の半分以下です。受けるサービスはまったく同じであるにもかかわらずです。経験しないと見えてこない介護の現実。みな等しく歳をとり、いずれ必要になる介護にこれほどの地域差があることを、いったいどれくらいの人たちが正しく認識しているのでしょうか。
ボーダーレス。公平な機会を与えられるべき教育と介護。国にも行政にも知恵を出してほしいし、それら業界の中で汗をかいている診断士の仲間もいると思います。多摩川を渡ったら「受けられるサービスは別」である現状を、「公平な機会」とは呼べません。コレクティブインパクト(行政、企業、NPO、市民など、さまざまな立場の人たちが協力して社会問題を解決すること)の視点は今後ますます重要になります。少子化を食い止め、安心して老後を過ごすための具体的な取り組みが増えるよう、私も診断士として草の根の改善提案を蓄えていきたいと思います。
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(佐藤 真武)