私が関係する大田区の中小企業の話です。創業から60年の歴史を持つ会社ですが、コロナ禍で売上が半減しました。雇用を維持することができず、それまで長く働いてくれた高齢の社員を中心に、社員の半数を解雇せざるを得ませんでした。債務超過目前となり、運転資金も底を尽き、あと数か月で倒産というところまで追い込まれました。メインバンクは、会社の大切な資産である工場のひとつを売却するよう圧力をかけてきました。
普段はおっとりしている3代目の社長ですが、この時ばかりは頑強に抵抗しました。その後、様々な資金手当てを模索する中で、政府系金融機関の支援を受けることになりました。優良な取引先を抱えていたこともあり、無担保で資金を調達し、危機を乗り越えることができました。そして辞めていった元社員に、「再び働いてもらいたい」と声をかけるところまで復活しました。
この時、私が思い出したのは、稲盛和夫さんの成功方程式です。
【人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力】
熱意や能力を測る尺度は0~100ですが、考え方の場合は-(マイナス)100~+(プラス)100となります。正直な所、熱意や能力に少し疑問符が付く社長だったのですが、考え方が間違っていなかったのです。工場を売却すべきだと考えていた私は、考え方がマイナスに振れていて、いくら熱意や能力があろうとも、人生・仕事の結果はマイナスだったということになります。事業に掛ける経営者の思いの深さを垣間見ることができた、貴重な経験でした。
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(菊池 正治)